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巻末手記

――できました、
  できました、
  かはいい詩集ができました。

我とわが身に訓(をし)ふれど、
心をどらず
さみしさよ。

夏暮れ
秋もはや更(た)けぬ、
針もつひまのわが手わざ、
ただにむなしき心地する。

誰に見せうぞ、
我さへも、心足らはず
さみしさよ。

(ああ、つひに、
登り得ずして歸り來し、
山のすがたは
雲に消ゆ。)

とにかくに
むなしきわざと知りながら、
秋の灯(ともし)の更くるまを、
ただひたむきに
書きて來し。

明日よりは、
何を書かうぞ
さみしさよ。

『金子みすゞ童謡全集』(JURA出版局)より
 

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